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社会の底辺を這いずりながらいつか逆転を夢見る男のブログ。
ツール
プロフィール
HN:
彩木
年齢:
39
性別:
男性
誕生日:
1985/02/21
職業:
自由人
趣味:
エロゲ/サッカー/自作PC/読書
自己紹介:
駄目フリーター(二十歳)
公務員試験での一発逆転を狙いながら、フラフラと空中分解寸前の生活を続けている。高卒、前職は某地方公務員だったが、DQNな部署に飛ばされ熱意を失い自主退職。退職金+貯金で安アパートに一人暮らし、煙草と酒に依存し、ぐずぐずに腐りながらも、最近はようやく前向きになってきたかも。
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獣の『音』が聞こえる蒼弥、
彼はその恐怖から逃れるために、
なにげない日常に縋りつく。



so dark against the snow





窓から差し込む朝日で蒼弥は覚醒した。
朝になれば『音』は消える、蒼弥はそっと安堵のため息を吐いた。

・・・疲れていたためか昨日は比較的早く眠れた気がする、
今になって鳴り出した目覚ましがそれを証明していた。


機械的に自動化された朝食を終え、少し早めだが鞄を片手に家を出る。
ここに居るとまだあの『音』が聞こえてきそうな気がしていた。
後ろ手でドアを閉め、せめて人の居る校舎に向か・・・


「やっほ~、蒼くん。今日は少し早かったね。うん、早めに出てきて正解だったよ。」


 彩香・・・


「え、蒼くん? どうかしたの?」


「ああ、なんでもない、おはよう彩香。」


「おはよ~、蒼くん。」


「・・・今日は久々に朝錬に出ようと思ってさ、ちょっと早めに起きたんだ。」


内心の動揺を悟られまいと吐いた嘘は以外に上手いものになった。


「すごい!、じゃあ私見学に行っていい?」


「あ、ああ、いいんじゃないかな?」


彩香が見学に来ると倉本の眉がつりあがる、
まぁ俺が耐えればいいだけなんだけど・・・


「だって蒼くんの弓すごいよ、ほかの人とぜんぜん違うんだから。」


「ん、どんなふうに違う?」


「えっと、ん~、う~うう~。」


ちょっと意地の悪い質問だったろうか、
彩香は考え込んでしまった。


「蒼くんの弓はね、強いの。それに的以外を狙ってる感じがする。」


「的以外? 狙いが変に見えるってことかな?」


「ん~ん、いいの。 朝錬遅れちゃうよ、急がないと。」


やや疑問が残るが彩香に引っ張られるようにして学園に向かう、
これ以上は聞いても無駄だろう。



二日降り続いた雪は止んで、、
風は季節が冬であることを告げていた。



校門を抜けて弓道場に向かう、
麻理奈ちゃんが準備をしていたようだ、
制服の上から胸当てをつけて弓を張っている。


「先輩、おはようございます。」


「おはよう麻理奈ちゃん。」


「あれ、倉本はどうしたんだ?」


熱が出ても(弓道だけ)しに来た伝説を持つ倉本だ、
登校中にダンプにでも轢かれたのか?


「ええと、いつもならもう来てるんですけど今日は遅いみたいです。」


「珍しい日に朝錬に来ちゃったな、準備で残ってることある?」


「いえ、的も準備終わりました。」


「了解、・・・麻理奈ちゃんが入部してから俺が準備に参加できてないなぁ。」


いくら部長候補と言ってもまだ一年生だし、あまり負担を掛けても悪いだろう、


「ん~、これからはもう少し急いで部活に来ることにしよう。」


「そんなぁ、駄目ですよ先輩、準備は私がしますから
 先輩はドーンと弓を引いてください。」


「いや、やっぱり麻理奈ちゃんも大変だろ? 倉本に朝錬付き合わされてるし。」


「朝から先輩の射を見れるなら、早起きは三文以上の得ですから♪」


「むぅ、蒼くん蒼くん、おしゃべりするなら私も混ぜてよぅ。」


壁際で座布団を敷いて正座している彩香から声がかかる、
そうだな、せっかく来たんだから練習するのも悪くない。


「さて、これ以上彩香に怒られる前に練習始めようか。」


矢を番え、弓を構える、
精神を集中させる、
そして体はゆっくりと射法八節を描く。


「ごめ~ん、麻理奈。 実は寝坊しちゃってさ。」


限界まで引き絞られた弓から放たれた矢は
的の右端すれすれにあたっていた。


「蒼くんはやっぱりすご~い!」


ばたばたと駆けてくる彩香、
その間に一瞬で割って入る黒い影。


「藤崎さん、弓道場内では静かにして欲しいんだけど?」


倉本だった。

そのまま睨み合う彩香と倉本。

じりじりと間合いを詰め合う二人を止めるのは俺の役目らしい、

真理奈ちゃんが目で訴えているし。


「倉本、おはよう。今日は遅かったな。」


「う~、おはよう。油断したわ、私が遅刻してくる日を狙ってたのね。」


遅刻してきたからか、少しばつが悪そうに言う倉本。


「阿呆か、俺はそこまで暇人じゃないぞ、今日は気が向いただけだよ。」


「まぁいいわ、急がないと時間なくなっちゃうし。」


倉本は俺の反論をあっさりと流し準備を始めた、
彩香はまた壁際に戻ってちょこんと座っている、
・・・気を取り直して朝錬を再開するか。



十数射打ち込んだらチャイムが聞こえてきた。


「よし、撤収~。麻理奈、片付けはいいわ。」


「はい、わかりました~吏沙先輩。」


朝錬終了。




右に彩香、左に倉本を引き連れて教室になだれこむ、

予想どうりこんな時間に担任が来ているはずもないが、

だらだら歩くと倉本が騒ぐ。

無用なトラブルは避けるが吉だ。


「よう、蒼弥。今日は倉本も一緒だったのか?」


裕太か、目ぇ爛々とさせやがって。


「うるせ、朝錬だ朝錬。文句があるなら朝錬で校庭でも走ってこい、幽霊陸上部員。」


「朝から出る幽霊がいるかよ、時々ふらっと出るから味わいがあるんだろ。」


「むぅ・・・。」


「さぁ俺の質問に答えてくれたまえ、蒼弥くん?」


「・・・黙秘だ。」


がらがらと大き目の音を立てて教室の扉が開かれる。


「ほらほら、席につけ生徒一同。手早く終わらそうじゃないか。」


どうでもよさそうに手で拍子を打ちながら言ってくれたのは
我がクラスの担任、河上唯先生である。
ショートにした茶髪は面倒くさげに跳ねていて、大学を卒業したばかりで若い、
担任としても教師としても、必要最低限の仕事しかしたがらない。
職員室にほとんど居ないことで名が知れていて、担当授業以外の時間のほとんどを
自分の特設した部屋で過ごしている。

自分のしたいこと以外にまったく興味を示さない姿は潔く、
俺は別に反感を抱かなかった。


まぁ、周りの教師はそうは思わないらしい。


「え~、連絡事項、特になし。サボるんならバレないようにうまくやれ、以上。」


それだけ言うとスタスタと教室を出て行った、


「うむ、あそこまであっさりだと逆に気合が入るってもんだ。」


「まあな、だらだら愚痴を聞かされるよりは何倍もマシだ。」


「それに若いし、綺麗だし、女教師だし。」


「まぁ基本的に同意だが、最後のはよく理解できなかったな。」


「お前には追いかけてくれる女子がたっぷりいるからな、しょうがないのか・・・。」


言葉の微妙なニュアンスが伝わらなかったのが悔しかったのか、
裕太は鼻を鳴らして目を潤ませながら席に戻っていった。


一時間目、終了。



二時間目、


「え~、であるからこの関数は対数を求めることで算出され~。」

だめだ、最近の数学には付いていけてない。

先生の言っていることを聞き流し、ただ黒板の記述をノートに書き写す。

数学は閃きの学問だと思う、つまり出来ないときは出来ない。



すべてが=でつながった世界に見えるものはきっとすべて正しいんだろう、

少しだけそこに行ってみたい気がした。


「え~、次の問題、倉本。」


「は、はい。」


あ~あ、あの声は相当動揺してるな、たぶん寝てたんだろう。

手元のノートをざっと見回して解答をはじき出すと、

答えをノートの端に走り書きして破いて丸める、

教師の死角を通すように二つ前の席の倉本の背中に当てる。

待ち構えるように後ろに回していた右手でその紙をキャッチすると、

倉本は音もなく紙を開き正解を口にした。




授業が終わると同時に俺の前に歩いてきた倉本は、
小さく舌をだしながら、


「ありがと~、蒼弥。助かっちゃた~。」


「いいけど、お前絶対あの教師に目ぇつけられてるぞ。」


「うう~、わかってるけど数学って眠気を誘うのよね・・・。」


「退屈なのは我慢、全部の授業で共通だと思うけどな。」


「ふんだ、成績優秀の癖に。」


優秀っていっても彩香みたいに校内模試で十位に入る訳でもない、

中の上程度だ、適当に授業を受けている割りにはいい成績といえるだろうが。


「まぁ、赤点逃げられなくなってきたら教えてやるよ。」


「うん、そのときはね。」


いつもなら反撃を食らう所だが、倉本にも数学の赤点は切実な問題らしい。


二時間目、恐怖の数学、終了。



三時間目終了、


四時間目終了。



今日も昼時の鐘が鳴る。

戦の始まりである、


「蒼くん~、一緒に食堂行こう♪」


「悪いが彩香、俺はカツ・・・ん?」


「蒼くんどうせ食堂に行っちゃうから、今日から私も食堂で食べる。」


「ん、じゃあ行くか。」


「蒼くんとの二回目のお昼だよ~。」



一回目は俺が死にかけたんだよな、

忘れたくても忘れられないよ・・・。



出足は遅くなってしまったがしかたがない。
既に人ごみが出来つつある食券売り場に並ぼうとすると、


「蒼弥~、カツカレー買ってあるわよ~。」


出遅れた俺のために買っておいてくれたらしい、
まぁ彩香の分がないから一緒か。


「彩香、裕太と倉本が座ってる席で待っててくれ、何がいい?」


「蒼くんに任せる、美味しいのにしてね。」


「待ち切れなかったらカツカレー食ってていいから。」


「わかった~。」


さて、まだ本格的に混雑してる訳ではないからそんなに時間もかからないだろう、
彩香の味覚っていまいちわからないからな、
俺のセンスで選んで構わないだろう。


・・・Cセットにしよう、ミニカレーにスープが付いて260円、経済的だし。

普通、自販機でしか買えない食券だが、
A,B,Cのセットメニューだけは売店から購入することも出来る、
知っている人の少ない裏技である。



ようやく手に入った、裕太の隣の椅子に滑り込む。


「ふぅ、お待たせ。」


「おう、遅かったな蒼弥。」


ビビンバセットについてくるヨーグルトを

ビビンバの上にトッピングして食っている裕太、

激しく間違ってるのは理解している、

でも俺は止めるのを諦めていた。



そしてその反対側で睨み合っている彩香と倉本、
今にもつかみ合いになりそうな険悪なムードが漂っている、
頭痛がしてきた、何故俺の周りでは争いが絶えないのだろうか。


「あ、蒼くん、おかえり。 ごめんね一口食べちゃったよ。」


「まぁ俺が買ってきたのもミニカレーだし、大して変わらないさ。」


「でも蒼くん、カツカレー好きだって言ってじゃない、はい、あ~ん。」


裕太が止まった、倉本も止まった、もちろん俺も止まった、そして周りの奴らも静まり返った。


そのままゆっくりと俺の口元に運ばれるスプーン、


回避不能、回避不能、回避不能。 ええぃ毒を食らわば皿まで。



 「あ~ん、パク。」


「「「「おおおお~~~~~。」」」」


「ん、美味しい?」


「もう少しカツにカレーをまぶして食うのが好きだな。」


「わかった。えっと。」


この隙だ! 俺は自分の目の前にあるミニカレーと
彩香がスプーンを突き刺そうとしているカツカレーを一瞬で取り替えた。


ミニカレーに落下する彩香のスプーン。


「あれれ?」


「ああ、気にするな彩香。そのまま食って問題ない。」


こうして俺はカツカレーを食す・・・。


                          「ふ~ん、あの二人出来てたんだなぁ。」

「・・・・・・。」
 
                    「今時、(あーん)だぜ、どんだけバカップルよ?」
                      
「・・・・・。」  



そうだ俺は食堂に食事に来たんだ、それ以外意識するな、
すべての神経をカツに集中しろ、忘れるんだ・・・。




「そぉぉぉ~~~うぅぅぅ~~~やぁぁぁ~~~~~。」




背後に炎を纏わせて倉本が復活した、裕太はいつの間にか食事を再開している。


「どうゆ~ことか説明してもらいましょうか?」


「ええと、差し出されたものを拒むのは礼儀に反すると思うのです、はい。」


「ふ~ん、つまり蒼弥は『あ~ん』されたら断れないっていってるのね?」


「はい、そうとって貰って間違いないです。」


        ・・・ん?論点がずれてないか?


「はい、あ~ん。」


「あ~ん、パク。」


         「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉおぉおぉおぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」


俺はそのまま食堂を逃亡した、

よくわからないけれどなんだか大切なものを失った気がした。




五時間目、終了。



六時間目、

強い眠気で意識は早々にブラックアウトする。




ーーーーーーーーそこはどこか暗い部屋の片隅だった。



『・・・そう、だから僕は一人だった。』


『悠久に近い時をただ魔道と学問に費やしても。』


『癒えない孤独に怯えていた、他人は恐怖だった。』


『そんな僕にも話しかけてくれた人がいた。』


『笑いかけてくれる人がいたんだ。』


『僕には彼女が必要だった。』


『いや、必要なんだ、これまでもこれからも。』


『綾・・・。』


「彩っ・・・。」ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「コラ、雪村。 惚気は休み時間にやれ、今は授業中だ。」


「・・・すいません。」


辺りからクスクスと忍び笑いが聞こえる。
見ていた夢につられてつい彩香を呼んでしまったのだろう、
自分でも言ったような気がするし。


不思議な夢だったな、

ん、裕太がブロックサインを送ってくる。



「く・ら・も・と・に・げ・ろ」



倉本が逃げる?
この学園に入学してから一度も見たことのないシーンだ。



鐘が鳴って、河上先生退出。

そして俺はそのブロックサインの真意を悟った、



「倉本から逃げろってことか~~~~!」


凄まじい殺気を撒き散らしながら倉本が迫る。


「うわわ、倉本。 俺今日サッカーの練習出るから、じゃな!」


走って逃げた。
怖くて振り返れなかった。



サッカー部員に交じってボールを蹴る、
弓道ほどではないが体を動かしていると、
悪夢を忘れることができた。

試合形式のミニゲームを終えると、
体中から汗がにじみでていた。


「雪村、お前サッカー本気でやる気はないのか?」


「いや、やっぱり弓道は捨てがたい、助っ人として頑張るよ。」


「ふぅわかった、もう言わないよ。」


主将の青木には悪いが、
俺には弓を手放すことは出来そうにもない。


「蒼くん、練習終わった~?」


「ああ、今終わった。」


彩香は校庭の端でサッカーの練習を見ていた。


「・・・はい、タオルです。」


「ん、ありがとう。」


マネージャーがタオルを用意してくれていた、
弓道部にはマネがいないからちょっと新鮮に感じる。


「蒼くん、速く!速く!」


「そう急かすなよ彩香、何か用事でもあるのか?」


「うう~、いいから来るの!」


そのままの帰る事になってしまった、
せめて制服に着替えたかったんだけどな・・・


「ん~蒼くん、明日は朝錬するの?」


「ああ、どうだろ。 たぶん参加すると思うよ。」


「わかった、待ってるから~♪」


もうすぐ夜が来ようとしている、
あの交差点は俺にとっての分岐点だった。
・・・狂気と『異形』の夜への。


「ん、蒼くん。さびしいなら一緒に行こうか?」


「・・・何言ってるんだよ彩香、ほらここの交差点だろ。」


「それじゃ、蒼くんまた明日ね。」


「ああ、またな。」



暗闇は既に町を侵食し初めていた、

街灯の明かりに照らし出された帰路を足早に歩き出す。

首に巻きつけたマフラーの中にも凍える寒風が吹き込む、

首を竦めるようにしながら家のドアを開き、

安堵のため息を漏らす、

蛍光灯のスイッチを入れて家の中の暗闇を掻き消したからだ、

まだ『声』こそ聞こえてはいないがそこら中から予兆がしている、

それは何も見えない暗闇だったり、

誰もいない部屋の片隅だったりした。

そこには確実に『何か』が存在しているのだ、

もしかしたらこちらにだって気が付いているのかもしれない。


「にゃ、にゃにゃ。」


「ん、昨日の猫じゃないか、ただいま。」


まだ子猫だしこの冬に外に放り出すのもかわいそうだ。


「よし、なんならお前、俺の飼い猫になるか?」


脇に手を差し込んで抱き上げると暴れなかった。


「にゃにゃ!!!」


どうやら同意しているようだ。


「ん~、とりあえず飯にしようか。」


『声』が聞こえ始めたら飯どころじゃないしな・・・。






頭から布団を被り、この恐ろしい世界から逃避する、

ヒタヒタと路上を走り回る『足音』、

まるで戦の前のような『唸り声』、

狂ったように『笑い声』をあげるものもいる、

何が俺とこの世界を繋いだのかはわからない、

とにかく俺は追い詰められていた、

家の中でまで聞こえ始めていた『声』に、

何か神経のようなものが切れそうだった。



いつの間にか布団の中に猫がいた、

猫はこちらをじっと見つめたあと俺の足先を抜け、

後姿を見せてピタッと停止した、

俺は目が離せなかった、

この非日常にあってまだこの猫だけがまともに見えたからだ、



その猫はゆっくりと、後姿のまま首だけを、こちらに向けた。





『やあ、『狩人』。いや、ご主人サマと呼ぶべきかな?』


嗚呼、ついに俺は狂いだしたのだろうか。


『私の名前はソノラ、記述を持たぬソノラ、見知らぬ者ソノラ。』


淡々と子猫の口から紡ぎ出される人語。


『あなたが狂気だと信じているのはただの薄っぺらい現実だよ。』


そして『音』は変わらず聞こえていた。


『だって彼らは生きていて、その足でついにこの部屋にたどり着くのだから。』


その瞬間何かが家のドアを蹴り壊した音が聞こえてくる。


『逃げるのかい? 負け犬のごとく夜になるたびに身を縮めながら。』


ずっと、このまま生きられるほど器用じゃないさ。


『あなただって思っただろう? こんな奴ら存在しなくていいと。』


一時の生存すら望んだことはないよ。


『正義とか悪とかじゃなくて、奴らは存在するだけでひどく臭う。』


この世を徘徊していい者ではない。


『不快に思わないか?あんな最下層の屑どもがなぜこの世にあふれ出ているのか。』


狂気と共に学んだ殺気が俺の身を包み始めていた。


『そうか、武器が必要か、どうせなら弓にしよう、ご主人サマにはきっと弓が似合うから。』


ごとり、と手元に漆黒の弓が置かれている。


『神に仇名す黒弓の一つ』


迷わず手に取った、

こんなところで訳のわからない『者』に、

殺されるのも食われるのもごめんだった。

その瞬間、手のひらになんともいえない違和感を覚えた、

ふと見ると弓と手が繋がっている、

そして弓の下先端からは今も、ぽつぽつと赤い『血』が流れていた。


「ソノラ、矢が無いんだけど。」


恐怖と驚愕を押し殺し無感情にソノラに質問する。


『注文も多いご主人サマだね、ソノラも苦労するよ。』


ソノラの尻尾の毛がさらさらと抜け落ち、

鋭く尖った矢に変貌する。



その瞬間、部屋のドアを蹴破った『異形』に鋭い矢が突き刺さった。

矢に与えられていた慣性を身に受け、転がりながら緑色の血を流す『異形』

それを追うように第二の矢が放たれた、

『異形』は壁に縫い付けられたままビクビクと足を衝動させている。


「・・・・・・・。」


『ははは、まさに『狩人』、やっぱりご主人サマを選んで間違いなかった。』


まるで卵のような体からはえる三本の足、
体中に浮き出ている無数の小さな手、
鈍器で潰されたような頭、


無言で第三の矢をつがえる。





長い夜は始まったばかりだった。







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